介護施設での看取りケアとは?具体的な手法や問題点

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介護施設での看取りケアとは?具体的な手法や問題点

はじめに

介護保険が始まった当初では考えられなかったほど、介護施設では、看取りケアが当たり前のように行われるようになりました。
看取りケアとは簡単に言えば、一人の尊厳ある人間として最期を迎えることを専門職として支えることです。

介護施設で看取りケアを行うには様々な方法がありますが、同時に、たくさんの問題にも突き当たります。
今回は看取りケアについて詳しく解説していきます。

看取りとは

介護保険が始まった時には、介護施設の職員も「看取り」という言葉を用いて良いのか分かりませんでした。しかし今では、当たり前のように「看取り」という言葉を使いますし、利用されるご家族様も「看取り」を望むことが多くなっています。

「看取り」とはどのようなことなのでしょうか。

看取りとは
まず「看取り」の定義について説明します。
看取りとは、「医師が一般に認められている医学的知見に基づき、回復の見込みがないと診断した者であること」と定義されています。

つまり近い将来、積極的な医療を施しても死が避けられないと「医師が判断」したことをもって「看取り」状態となったと判断します。
この判断は、いくら経験を積んだ看護師であっても代替することはできません。

その診断がくだされた利用者様に「身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減させながら、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること」これが看取りケアです。


実際に看取りケアをどのように行っているのか(ご家族の要望を聞き取る)
看取りケアの具体的な方法は、介護施設によって異なります。
また介護施設の種類(特養なのか、老健なのか、グループホームなのか等)によっても異なりますので、一例としてご紹介します。

まず、介護施設に入所する段階で、看取り状態となったらどうしたいのか、利用者様・ご家族様の意向をお聞きします。
その際、その施設で行う看取りケアについて、相談員などが細かく説明を行います。
ここで、利用者様・ご家族様の希望と施設側が対応できることの、最初のすり合わせを行っておきます。

つまり、利用者様・ご家族様がいくら看取りケアを希望したとしても、入所する介護施設が、納得してもらえるような看取りケアを行うことができなければ、最初から看取りケアを行う話はなくなる可能性もあるのです。

ただし、高齢者の身体は、日々変化していきます。
介護施設に入所し元気になる人もいれば、どんどん元気を失っていく人もいるのです。
この過程の中で、看取りに対する考え方を変えるご家族様もいます。

例えば、入所した時には自分のことはほとんど自分でやれるぐらい元気だったため、「看取りなんてとんでもない!具合が悪くなったら病院に入院して治療してもらい、できる限り長生きして欲しい」という意向だったとします。
しかし入所してしばらくすると、何かの病気があるわけではないのに元気を失っていくことがあります。
そうすると「今の状態で、入院治療を望んでも、本人にとって苦痛なのではないだろうか」とご家族が考え方を変え「施設で看取りケアを行って欲しい」という意向へと変化することがあるのです。

こういったご家族様の心境の変化をふまえて定期的に看取りについて意向を確認する施設もあります。

最終的に医師が回復の見込みがないと診断し、看取り状態となった際に、このまま施設で看取りケアを行ってよいかという決断を利用者様、あるいはご家族様にくだしてもらいます。
ここで初めて「看取りケア」がスタートするのです。

さらに、看取りケアを行っている最中もご家族様と密接なコミュニケーションを図り、今の方針で良いのか、何かご本人にしてあげたいことがないのか、施設側に望むことはないのか、などを細かく確認していきます。
一週間に一度、ご家族様の意向を確認する施設もあるのです。

このように「看取りケア」は、あくまでも利用者様・ご家族様の意向に沿って行われるものなので、ご家族の要望を聞き取ることが非常に大事です。

看取りケアを行う際に気を付けたいこと


ご本人・ご家族の意向で看取りケアを実際に行うことになった際、

どんなことに気をつけながら看取りケアを行っていけばよいのでしょうか。
そもそも看取りケアの目的は何なのでしょうか。
詳しくご紹介します。

看取りケアの目的
看取りケアの目的とは、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減させながら、人生の最期まで一人の人間として尊厳ある生活を支援することです。

尊厳があるためには、あくまでも利用者様やご家族様が納得できる生活を送れるようになる必要があります。
つまり、施設側の都合でなく、利用者様・ご家族様の意向に沿ったケアが必要なのです。

身体的苦痛を和らげるためには、医師の協力が不可欠です。
また精神的苦痛を和らげるためには、日ごろから利用者様の一番近くで生活を支えてきた介護職員の力が不可欠です。

さらに、亡くなるまでの間にどんなものを食べたいのか、それが食べられるのか、食べられなければ代替品や他のものはないのかなどを検討するには、栄養士や調理スタッフの協力が不可欠です。
看取りには、他職種が協働することがとても大事なのです。

また、看取りケアを始めるという決断をくだした段階では覚悟していた身体的な衰えなどを、ご家族様が目の当たりにすると、動揺してしまい決意が揺らいでしまうこともあります。
そういった事態に備えて、ご家族様の精神面での変化にも敏感である必要があります。


介護職員の心構え
特に入所施設の仕事をしていれば、必ずといってよいほど利用者様の「死」に直面します。
死を近く感じると不安や戸惑いを覚えることがあります。

ただ、自分の不安や戸惑いをご家族様に見せてしまうと、ご家族様の不安をあおってしまうことになりかねません。
さらに利用者様ご本人にも、自分が死に向かっていく過程の中で支えてくれる介護職員が不安になっていれば、穏やかに死を迎えることができなくなるかもしれません。

そのため自分の不安な気持ちは同僚と共有し、なるべく落ち着いてケアにあたることに注意する必要があるのです。

看取りケアの問題点とは

介護保険施設では当たり前のように看取りケアが行われています。
だからといって、何も問題がないわけではありません。

看取りケアを行う際には、どのような問題点があるのでしょうか。それを解決していくためには、どうすればよいのでしょうか。


対応する介護職員の精神的負担
看取りケアは「死」に直面するケアのため、介護職員の精神的負担が大きいという問題点があります。

特に、入職したばかりの介護経験の少ない介護職員の場合、看取りケアに自分の限界を感じて退職を考えてしまうこともあります。

そのため看取りケアを行っている施設では、介護職員の精神的負担を回避、あるいは軽減させるための研修や意見交換会などを行うことが大切です。
不安な気持ちを表現できる場所をつくるようにしましょう。
それが決して悪いことではなく、当たり前の感情であることを自覚でき、周りも理解してくれていることを感じる中で、ケアに当たれるように配慮しましょう。

夜勤の時、夜中にいきなり心肺停止の状態を発見することによるストレスを軽減させるため、生体反応を測定・感知するセンサーなど補助的ツールもあります。
しかし、それを医師や看護職員に報告する際に、最終的には自分の手で触れなければなりません。
看取りケアを行うとどのような場面に遭遇するのかを事前にレクチャーし、実際に看取りケアを行った場合にはその時やその後の心境を語れるような場を設けましょう。

もしも自分が行ったケアが間違っていないか…などを心配しているのだとしたら具体的に聞き、もっと良い方法があるのだとしたら、本人の精神的な状態に応じて徐々にレクチャーすることができます。


全員で同じ方向(ゴール)を向いていくことが困難なことも
看取りケアは他職種で連携しなければ行うことができません。
その際、皆が同じ方向(ゴール)を向いていないこともあります。

例えば看護職員は医療職のため、排尿がなければバルンカテーテルを挿入したくなるかもしれません。

利用者様やご家族様がその処置を望んでいるのなら良いのですが、そういった器具は一切体に着けて欲しくないという希望の場合には、控えなければならない医療処置もあるのです。

この時「バルーンカテーテルは必要である」と判断した職員がいて、実際に留置してしまうと、同じゴールを目指そうと思い頑張っている他の職員の心に戸惑いが生じてしまいます。

他職種協働で行うチームケアをまとめていくのは、看護主任や介護主任などリーダー格のスタッフです。
ミーティングの場を設けて意見交換をするなど、実際に現場で先頭に立っている人が同じ方向を向いていくような対策をとりましょう。
また、疑問が生じたらまずは主任に相談する、など予めルールを決めておきましょう。

おわりに

介護保険施設での看取りケアは今後、広がることはあってもなくなることはないでしょう。

だからこそ正しい知識のもとで、皆が同じ方向を向いてケアを行うことが重要です。
そして、利用者様、ご家族様、職員それぞれに、身体的・精神的な負担が生じることをきちんと理解しておきましょう。

介護はチームワークです。看取りケアは、その集大成であるともいえます。ご紹介したようなことを考慮しながら、より良い看取りケアを行えるように皆で話し合いましょう。