くも膜下出血の後遺症は?介護をする上で気を付けるポイント

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くも膜下出血の後遺症は?介護をする上で気を付けるポイント

はじめに

脳血管障害の後遺症によっては介護が必要になってしまうことはよく知られていることですが、脳血管障害と一言で言っても様々な症状や後遺症の差異があります。
今回は、脳血管障害の中でも発症率が高い、くも膜下出血の後遺症のある利用者様に対する介護のポイントについて解説していきます。

くも膜下出血の症状と後遺症とは

くも膜下出血とは、
脳を覆う3層の髄膜のうち、2層目のくも膜と3層目の軟膜との間の空間「くも膜下腔」に出血が生じ、脳脊髄液中に血液が混入した状態を言います。
くも膜下出血より引用

多くの場合が元々あった脳動脈瘤の破裂によるもので、男性よりも女性の方が発症率が高いとされています。

くも膜下出血の発症時の症状
症状の一番の特徴は「突然の激しい頭痛」です。
多くは嘔吐を伴いますが、痛みの程度などには個人差があり、多くの場合意識障害を起こします。
一度激しい頭痛に襲われて回復しても、当日中に再び動脈瘤が破裂することが少なくないようです。
一度猛烈な頭痛を訴え、意識も鮮明でなくなった場合は、速やかに病院に搬送することが必要です。

後遺症として可能性があるもの
くも膜下出血は、出血の程度や出血箇所によって程度は変わりますが、様々な後遺症の可能性があります。

(例)
・麻痺
・しびれや痛覚などの感覚障害
・視野に不具合が残る視力障害
・嚥下障害
・失語症や感情障害などの高次脳機能障害  など

後遺症に合わせたリハビリが必要

後遺症によってリハビリや介護の方法も異なっていきます。

運動障害がある場合のかかわり
くも膜下出血を起こした後、多くの場合は体に麻痺が残ります。
まずはどの程度の運動障害が出ているのか見極めた上で、リハビリが行われます。

・基本動作の自立:寝返り、座る、立つなどの訓練
・歩行訓練:バランスを取る、車椅子への移動、杖や歩行器などを用いた訓練
・応用動作の訓練:手芸や工作などの創作
・日常動作の訓練:着替え、食事やトイレ、入浴などの訓練

リハビリで機能が回復したとは言え、自宅に戻ると病院や施設のように人手も設備もありません。
退院前に段差や手すりの有無など思わぬ事故や転倒が起こる可能性は排除しておくことが重要です。

嚥下障害がある場合のかかわり
嚥下障害が残った場合でも、口から食べるという行為は、生きる意欲を保つ上でも非常に重要です。
自宅での誤嚥は対処に手間取ることもありますので、予防策を立てておきましょう。

(例)
・一度に口に入れる量を少なくする
・食事にとろみややわらかさをつけて飲み込みやすくする
・寝たきりの状態であれば、30度程度ベッドを起こす
・寝たきりの状態でも、食後2時間程度はベッドを水平にせずに過ごしてもらう
・栄養補助食品を上手に使う
・食後の口腔ケアをしっかりと行なう

介護食の調理が手間、苦手という方は介護食の宅配サービスなど外部サービスの利用も検討してみてもいいでしょう。

言語障害がある場合のかかわり
病院でリハビリを終え、日常生活に戻った際に重要になってくるのはコミュニケーションをどう取っていくか、ということです。
自宅に戻った頃には、多くの人が全失語(言葉を聞いたり読んだりして理解する、書いたり発語して表現できなくなる状態)の状態は脱していますので、少しずつでも意思を発信することはできるようになっているはずです。
それぞれの失語症のタイプに合わせた工夫をすることで、介護者の心理的負担はぐっと軽くできます。

(例)
・名前当てや連想ゲームのようなことで発語を促さない
くも膜下出血の後遺症で失語症になっている場合、こうしたことは逆効果です。
思い出したくてもできないだとか、正しい言葉にならないといったもどかしさを強化してしまいます。

・ゆっくりと明瞭に話す
失語症のリハビリをしている時に、言語聴覚士の口を見て言葉を理解する経験をしている利用者様は多いので、口をはっきり動かすこともコミュニケーションをとる上で有効です。
ただ、大声で話す必要はありません。
話題を変える時も、利用者様が前の話題を理解したとはっきりするまで待ちましょう。

・「はい」「いいえ」だけで答えられる質問を使う
失語症になると、言葉を正しく使うことが難しくなります。
人の話を聞いて理解することができるタイプの失語症であれば、「食欲はある?」や「普通のお粥よりパン粥がいい?」などのように、「はい」「いいえ」だけで答えられる質問を用いるとコミュニケーションを取ることができることも多いです。

・視覚的な補助を使う
「知ってるのに名前が出てこない」という場合はとても多いです。
そういう時には、よく使うものや好んでいるものの写真などを使うのもよい手段です。
利用者様の趣味のものや、好んでいる服や雑貨の写真を自宅に戻る前に用意しておくことをオススメします。
写真以外にも、アナログタイプの時計なども役に立ちます。
そういった身近なものを使ってコミュニケーションを取ることも手軽ですし、お互いに気張らずできる方法です。
・本人のペースで受け答えをする
失語症になってしまうと、話すことそのものに大変なエネルギーを要します。
「相手が自分の話すことをじっくり聞いてくれる」という姿勢が本人の励みになります。
日常の介護の中ではつい「こう言いたいんでしょ?」と先回りしてしまいがち
ですが、せっかくの利用者様の「話そう」とする意欲を削いでしまいます。
本人が言葉を見つけられずに困り果てているのが分かった時に、「次の音は○?」とか、「○○?それとも××?」と助け舟を出すようにするにとどめましょう。

失認・失行がある場合のかかわり
・失認
失認とは、物の形や色、触っているものが何なのか分からない、人の顔や名前が認識できない状態のことを言います。
この場合は以下のような工夫が有効です。

・どの感覚が認識できないのかを確認する
・その感覚を使わなくてもよいように環境を整える

例えば、くも膜下出血での出血部分によっては言葉を話せるが書いたり読み書きがまったくダメということも起こります。
そういう場合は、コミュニケーションを会話中心にすることが有効ですし、人の名前が認識できないのであれば、会う人に名札をつけてもらうなどの工夫が有効です。

・失行
「失行」とは、麻痺や運動障害がないのに、道具の使い方が分からなくなるなどの状態を言います。
服の着方が分からなくなったりすることもこれに含まれます。
この場合は、以下の工夫が役に立ちます。

・使うものを極力少なくして、決まった位置に置くように環境を整える
・道具を使う、服を着る時には、例を示しながら一緒に繰り返し行なう

介護サービスを上手に利用しましょう

くも膜下出血を経て自宅に戻る際には、利用者様の身体はもちろんご家族にも様々な変化が起きていることが多く、工夫を求められる場面が増えます。
その工夫をすべて家族が担うとなると、共倒れになってしまいかねません。
介護サービスを上手に組み合わせて、自宅での介護生活を充実させていきましょう。

介護保険を利用する
介護保険を利用するには、要介護認定という審査がありますが、その要介護度によって様々なサービスを受けることができます。

介護保険の在宅サービス
・訪問介護
・訪問入浴介護
・訪問看護
・訪問リハビリテーション
・居宅療養管理指導
・通所介護(デイサービス)
・通所リハビリテーション(デイケア)
・短期入所生活介護(ショートステイ)
・短期入所生活介護
・福祉用具の貸与
・特定福祉用具購入費の支給
・住宅改修費の支給

介護保険の入居型施設サービス
・特別養護老人ホーム
・介護老人保健施設
・指定介護療養型医療施設

このように、介護保険には多様なサービスが用意されています。
入院生活から自宅に戻ることができる場合は、運動障害の程度に合わせて介護保険を利用して住宅のリフォームを行います。
少しの設備で自宅での生活が楽になりますし、障害の程度によっては施設の利用も検討しなくてはなりません。
介護者だけでなく利用者様の自己負担も考えて、デイサービスや短期入所のできる施設などの利用も取り入れます。
できるだけ利用者様の望む場所で生活の拠点を構えられるように支援しましょう。

おわりに

くも膜下出血が発症した場合は早急な対処が必要です。
治癒後も差異はあっても後遺症の発症が考えられますので、症状に合わせたリハビリとご家族の対処も欠かせません。
ご家族だけの対応では介護疲れで共倒れ、ということにもなりかねませんので、上手に介護サービスも利用して、利用者様もご家族も快適に過ごせるように工夫していきましょう。