介護現場で実践!利用者様のQOLを向上させるには?
はじめに
医療系のテレビドラマでも「QOL」という言葉が聞かれるようになりました。
今や介護の世界でも、当たり前のようにQOLという言葉を用いています。
しかしQOLという言葉は、単語自体が何かの意味をもつのではなく、あくまでも利用者様の生活、人生を豊かにしていくために分析を行う指針でしかありません。
単にQOLという言葉を用いてカンファレンスを開けば良いというものではなく、QOLの本質をしっかりと理解し、考え、実際に行動することが必要です。
そのためのポイントをご紹介します。
QOLとは?
QOLとは「生活の質」「人生の質」と訳されるように利用者様が尊厳を保持し、その人らしく生活するための指針です。
では、具体的にQOLとは何なのでしょうか、そしてどのように重要なのでしょうか。
QOLとは
QOLとは「Quolity Of Life」の3つの頭文字をとった言葉です。
日本語で訳せば「生活の質」となります。
「生活の質」という概念はあまりにも幅が広いのですが、いってみれば、その人自身の生活の価値観や幸福感、生活満足感という概念のことです。
介護アドバイザーである高口光子氏は、こう言っています。
「クオリティ・オブ・ライフと英語で言われても、日本人にはピンとこない。
とはいえ“生活の質”と置き換えても、あまりにも広義過ぎて新任スタッフに伝えることが難しい。
なので、QOLとは【その人らしい生活】だと思えばいい。」
確かに私たちは、少しでも幸福で満足の得られる生活をおくりたいからこそ、日々頑張っています。
それには、自分らしい生活をおくれるということが最低条件なのです。
QOLの重要性
QOLを向上させることができれば生活の質が上がりますから、必然的に満足度も上がることになります。
介護が必要な高齢者の場合、満足度が上がるということは生きていく希望に直結します。
また、生活の質とは「その人らしい生活」だと述べました。
つまりQOLを向上させることは、利用者様がその人らしい生活をおくることなのです。
QOLの向上が目指すところは、その人らしい生活をおくってもらうことであり、結果的に人生の満足度を上げ、生きていく希望を湧かせることとなるのです。
QOLとADLの関わり
「その人らしい生活」というのは人それぞれですが、誰にでも共通するものとして「自分がやりたいことが自分のやりたい時にできる」ということが挙げられます。
そのためには、食事・トイレ・入浴・更衣・整容などの日常生活の行動がある程度自立していることが重要です。
なぜなら、そういった日常行動に介助が必要であれば、「これがしたい!」と思っても自分の好きな時に好きなようにやるわけにはいかなくなるからです。
これでは、人生の満足度としては下がってしまいます。
この日常生活行動のことをADLと呼んでいます。
QOLとは切り離せないADLとは?
わたしたちが、日ごろ何気なくおくっている日常生活ですが、それを満足いくものにする=QOLを向上させるためにはADLの維持・向上が欠かせません。
ADLとは何なのでしょうか。またなぜQOLの向上にADLが関係するのでしょうか。
ADLとは?
ADLとは「Ability of Daily Living」の頭文字をとった言葉で、「日常生活行動」とも呼ばれます。
食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴など生活を営む上で不可欠な行動のことです。
要介護認定が下される人は、病気や怪我、障がいなどが理由でADLが自立しておらず、介助が必要になっている人であるといえます。
ADLの重要性
「その人らしい生活」というのは、日々の暮らしの連続の上に成り立つものです。
この日常生活行動=「ADL」の能力というのは、非常に重要です。
日々の暮らしがなければ「QOLの向上」にまで考え方を進めることすらできないのです。
また、ADLが向上すれば自分でできることが増え、失ってしまった自分の役割・自信を再び得ることもできます。
すると「自分もまだまだやれる」という自己肯定感がうまれます。
結果的にQOLを向上させることへつながっていくのです。
ADLが低下する原因
高齢者は、加齢に伴い筋力や身体機能が低下していきます。
介護が必要な高齢者の場合にはその傾向が著明です。
筋力や身体機能はADL能力を維持するには必要不可欠なもので、それらが低下するということは当然ながらADLも低下していきます。
下腹部の筋力が衰えて排泄トラブルを抱え(ADLの低下)、おむつの着用やトイレ介助が必要になってしまうと自分のタイミングでトイレに行くことができず、生活の質が下がってしまうのです(QOLの低下)。
また、物事を認知する機能が低下すると、それに伴い脳や身体を動かすことも減るため、ADLも低下していきます。
身体機能と認知機能が低下していくことを予防しなければ、寝たきり状態となるのが早まってしまう、ということになるのです。
QOLとADLを向上させるためには?
QOLを向上させるためにはADL能力を維持・向上させることが大切です。
頭では分かっていたとしても、実際の介護現場で何を、どのようにしていけばよいのか分からない、という介護職員も多いのではないでしょうか。
QOL・ADLを向上させるには具体的にどうしていけばよいのか、例を挙げてみます。
ストレスの軽減
人間の体は「こころ」と直結しています。
「こころ」が一番脅かされてしまう原因の一つは「ストレス」です。
高齢者になれば、若い世代よりもイレギュラーなことに対処する能力が衰えますので、環境の変化だけでもかなりのストレスになります。
つまり、ストレスを軽減させることができればQOLとADLの維持・向上につながるのです。
ストレスを抱える原因は人それぞれですが、介護現場ですぐに実践できる精神的ケアは「利用者様の話や想いに耳を傾ける」ということです。
介護施設は多くの利用者様が入居していますから、自分がわがままを言うことでスタッフに迷惑をかけてはいけないと思っている利用者様もいます。
そんな利用者様の言葉や想いに耳を傾けることができれば、それだけでストレス軽減につながります。
特に、話好きな利用者様の場合には、誰かに話をすることでストレス解消になることがあります。。
不満を解決するために話を聞くのではなく、こころの中の想いを「吐露」してもらうのです。
ADL能力を高める
今まで述べてきたように、ADLにもQOLにも共通するのは「動くこと」です。
体を動かすことは、何をおいても基本中の基本です。
高度なリハビリができなくてもかまいません。
今は「生活リハビリ」という考え方が浸透していて食事、トイレ、お風呂など日常生活動作の中でリハビリしていこうという志向が高まっています。
排泄ケアやトイレ介助などで利用者様と関わる時、少しでも自分の力や残存機能を活かしてもらう介助を行うこと。
これで生活リハビリを行うことができるのです。
また、ベッドや椅子、歩行補助具などの道具や家具を工夫して、生活空間を自然にリハビリができるかたちに調整することもできます。
これなら、何か新しいことを始めるために多くの時間を割くことなく、ADL能力を高めることが可能です。
おわりに
QOLやADLを向上させる、と聞くと、難しいことをしなければならない と考えるかもしれません。しかし、ストレスの軽減や日常生活の中でリハビリを取り入れることでQOLやADLの向上に取り組めるのだとしたら、意外と取り組みやすいのではないでしょうか。
QOLの低下は、生きる希望を失うことに直結します。
認知症の方の場合には症状が悪化し、精神症状がない方でもうつ病を発症してしまうことにもなりかねません。
できるだけ早くADLやQOLの維持向上の取組み始めることは、利用者様の今後の人生を大きく左右することとなります。
ぜひ、介護の専門職として、前向きに取り組んでいきましょう。